「髑髏鬼」（横溝正史） | ラバン船長のブックセイリング | 後の横溝作品のエッセンスが凝縮されている

後の横溝作品のエッセンスが凝縮されている

「髑髏鬼」（横溝正史）
（「丹夫人の化粧台」）角川文庫

「髑髏鬼」（横溝正史）
（「横溝正史探偵小説コレクション①」）
　出版芸術社

薄気味悪い髑髏仮面の噂が立つ
麻布霊南坂。
その界隈にある
吉井男爵の屋敷で開かれていた
令嬢･田鶴子の
誕生パーティ席上で、
秘書の片山が
何者かに刺殺される。
現場から立ち去った男の顔には
鼻も唇もなかった。
犯人は髑髏仮面…。

｢鼻もなければ唇もない、
目は穴のように黒く凹んで
眉毛もなかった。
剥き出しになった二列の歯｣
｢顔全体に血も肉もない、
絵に描いた髑髏そのまま｣という
髑髏仮面。
子ども騙しのように思えますが、
決してそうではありません。
昭和5年発表の本作品にこそ、
後の横溝作品のエッセンスが
凝縮されているのです。

【主要登場人物】
髑髏仮面
…麻布界隈に突如現れた怪物。
　鼻や唇がなく、
　その様相は髑髏さながら。
吉井田鶴子
…吉井男爵の一人娘。傲慢な性格。
　夫となる片山に
　何やら秘密を握られている。
片山専一
…吉井家の秘書。田鶴子と婚約。
伊達三郎
…吉井家に引き取られて育った青年。
　数日前より行方不明。
伊達淑子
…三郎の妹。

丹夫人の化粧台横溝正史 (角川文庫)

created by Rinker

今日のオススメ！

本作品の読みどころ①
化け物じみたキャラクター
こうした化け物キャラクターは、
どちらかというと乱歩の得意技という
印象がつきまといます。
ところが乱歩の化け物キャラは
｢黄金仮面｣にせよ｢蜘蛛男｣にせよ
かぶり物であったり、
その行動の特殊性から来た
｢綽名｣であったり、
本質的に化け物じみているのは
｢一寸法師｣と｢人間豹｣くらいでしょう
（あとは二十面相のコスプレ)。
一方、横溝は｢真珠郎｣の真珠郎、
｢夜光虫｣のゴリラ男等、
仮面やかぶり物ではない
素の｢化け物キャラ｣が登場します。
本作品の髑髏仮面は
その先駆け的存在なのです。

本作品の読みどころ②
誰が本当の悪かを読み解く設定
いかにも悪役らしい化け物キャラは、
得てして｢何かの隠れ蓑｣、
もしくは｢善人｣であったりします。
こうした横溝作品特有の設定も
本作品にはしっかりと見られます。
中盤ですでに
悪役が明確となるのですが、
髑髏仮面は果たして…。

本作品の読みどころ③
トリックよりも情緒を優先
後期の金田一シリーズは
本格的探偵小説なのですが、
初期の横溝はそうしたものを
目指してはいなかったと考えられます。
トリックに拘らず、
情緒を優先させたような作品が
多いのですが、本作品も
そうした傾向が強く見られます。
目立ったトリックは特にありません。
悲しい身の上の兄妹の物語なのです。

本作品の読みどころ④
おどろおどろしいアイテム
片山の死体が発見される前、
血に塗れた蛾が飛び回ります。
この蛾は犯人が用意したものでもなく、
偶然の産物である上、
筋書き上も重要な意味を持ちません。
ただただおどろおどろしい雰囲気を
醸し出すためのアイテムなのです。
これこそ横溝作品の面白さなのです。